能登のウスバシロチョウ

「とっくりばち No.46 Sep. 1981」     天野 勝広  ウスバシロチョウの能登での産地は、宝達山が唯一の場所とされていたが、 輪島地方でも採集したので報告する。  ウスバシロチョウとの出会いは、1975年6月1日から始まる。その日は 日曜日だったので、学生が3人ほど家に遊びに来た。天気が良いので話しもそ こそこに車で外にでた。途中で150円のネットを1本買って車に積み、門前 方面に向かった。ここでネットを買うまでのいきさつもあるが長くなるので省 略する。蝶を採集し始めたのがこの日なので、蝶と見ればすべてつかまえてい た。この時点で蝶に関する知識は非常に少なく、蝶といえばモンシロチョウか アゲハチョウぐらいしか知らなかったのである。今思うとおかしくなるが、そ の時はモンシロチョウを探していた。しかし、モンシロチョウは見つからず、 ベニシジミやルリシジミばかり目に付き、他の蝶はなかなか見つからなかった のである。そのうち土手の所で白い蝶が飛んでいるのを見つけ、やっとモンシ ロチョウがいたのかとつかまえてみたら、モンシロチョウとは少し感じがちが うのでがっかりしたのを覚えている。結局その日はモンシロチョウを採集でき なかった。家に帰り図鑑で蝶の名前を調べてみてはじめて、ウスバシロチョウ という名前を知ったのである。しかし、ウスバシロチョウがどのような蝶なの か知らなかったのであまり驚きもなかった。翅の透明な白い変わった蝶「ウス バシロチョウ」と初めて出会った日である。  その後、蝶に関する知識も増え、いろいろと資料を見ていくと、奥能登では 一度も採集された事がないということで驚いた。それからウスバシロチョウに 愛着がわき、毎年かならず春になると、いそいそと会いに行っている。今年で 7年目になるが元気に飛び回っていた。場所は門前地区との境である。この場 所は丘のような土手があり、その上が林になっている。ウスバシロチョウが確 認できるのはこの地区で、約1Km程の範囲でしか発見していない。最初2年 間はすべて採集したのが♂で、♀はいないのか、又は、別の場所にいるのかと 考えていたが、調べてみると時間帯とか天候の関係、発生時期などの条件が関 係しているのがわかり、3年目ではじめて♀を1頭採集した。その後は♀も確 認できるようになったが♂の数がはるかに多かった。ウスバシロチョウに会え るのは、太陽が出ていて風が少なく、しかも確認できるのは約2〜3週間しか なく、又この時期は梅雨なので雨が多く、仕事の関係で日曜日しかいけないと いう条件下では、年に1度が良い方で、活動の活発な午前中となると、その機 会が又限定されてしまう。次にウスバシロチョウに関する記録を示す。 ○ 1975年6月 1日   ♂10数頭確認♂3頭採集(晴れ) ○ 1976年5月19日   ♂2頭採集(晴れ) ○ 1977年5月22日   ♂2頭♀1頭採集(晴れ)                他10数頭確認  ○ 1978年5月28日   ♂10数頭確認♀1頭確認(晴れ) ○ 1979年6月 9日   1頭のみ確認(晴れ) ○ 1980年6月 5日   3頭確認(晴れ) ○ 1981年5月22日   3頭確認(晴れ)  最近、時期的に悪い時に行くせいか、個体数が少なくなった感じがする。採 集したのは最初の3年だけで、その後は確認するだけにしている。又♀は今ま でに1頭しか採集していない。蝶の乱獲や環境破壊が問題になっている折、地 域的には新しく発見されたという事で問題にされるかもしれないが、蝶として は特別重要なものでないので、できるだけそっとしておきたいという気持ちで ある。1976年5月19日加賀の市原で、ウスバシロチョウの♂2頭採集し た標本があったので、能登のウスバシロチョウと比較してみたが、加賀産の翅 は透明度が強く、全体として黒っぽく感じるが、能登産は透明度が少なく白っ ぽく感じる。形も能登産が全体的に大きいものが多いようである。しかし、藤 岡の図鑑の説明にもあるが、ウスバシロチョウは個体差が大きく、地域差とし ては断言しにくい。       (1981年7月1日)    


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